2024/06/13  
PHILIPS Fidelio X3の話

PHILIPS Fidelio X3
 これ2年くらい前から欲しかったんだよなぁ・・・

録音動画で聴いてみて、突出して音色が良いヘッドホンだなと思っていた。X2と比べても明らかに良くなっているのに、これが売れないとか音のキャラクターとか表層的な部分しか分からない人が多いんだなと思っていた。逆に言うとX3をきちんと評価している人はお目が高いというか、一般よりも感度の高いゴールデンイヤーよりの人たちなんだろう。
・・・・・・・・・・まぁ、音がモヤっているというのは分かる。でもエージングで解消するんじゃないかと思っていたのでいつか買いたいと思っていた。 買わなかったのは、2.6万円くらいで売っているところは本物かどうか確信が持てないし、まぁ、たぶん本物だろうけど、本物かどうかモヤモヤしながら使うのも嫌だなと思っていたので、本物と確信できる店で安くなるのを待っていたら、いつまでも買えないという感じだったのだ。
ところがこのヘッドホンいつの間にか販売終了になっていたので、急遽買うことにした。


で、箱出ししたんだけど、質感が期待よりしょぼくてがっかりしてしまった。
このヘッドホンは高級感を出すために、ヘッドバンドやアームにレザーを巻いてある。それでアームの裏側に継ぎ目があるんだけどレザーが波打っていたり隙間ができてたり、若干浮いてたり、糊付けで張り付けただけってのが丸わかりで、とにかく仕上げが雑。もちろん革だから継ぎ目ができるのは分かる。だけど革の切断面が目立たないように折り返したり、縫い付けてステッチ作って目立たないようにする努力はしてほしいところ。ヘッドホン外すたびに継ぎ目の雑さが見えるから高級感なんかあったものじゃない。開発者の方は本当にこの仕上がりで良いと思ったんですかねぇ?ステッチで縫わなくても両面テープで貼り付ければ浮き上がることもなさそうですが、天然の革なので厚さが均一でなくどうしても継ぎ目に段差ができてしまうのかもしれません。まぁ。でも何かしらの工夫はしてほしいとは思います。これなら初めから革張りしないほうがコストも下がるし良いんじゃないかと思ってしまった。音に関係ない部分だし。

それからヘッドバンドの仕上げも良くないです。革製のヘッドバンドの断面を見せないよう枠で一周して覆っているのですが、枠を一周させて片方で重ね合わせて縫ってあります。左右対称でないのが美しくないし、ちょうど良い長さで切って隙間を縫い合わせてステッチを作るとか、奇麗に見せる方法はあったと思います。ここはアームのレザーの継ぎ目以上になんとかできたはず。
こういうところ見ると、カタログに高級感謳いたいだけで拘りないんだなと思ってしまう。安直に革さえ使えば消費者は高級だと思ってくれるだろうとこんな適当な仕上げされると革にされた牛さんも浮かばれないだろう。
まぁ?私はK701のイヤパッドを雑巾だのゴミだのいう感覚の人間だし、レザー使っているから何なの?という発展途上国的な感覚な持ち主であるので、高級レザーを有難がる先進国的感覚は分からない。だが先進国的感覚を持った人間をこの仕上げで満足させられるとも思わない。
全体的なビルドクオリティーはSRH1540に劣っているので6万クラスのヘッドホンレベルではないだろう。実際3.7万なのでその通りなのだが、だが、3.7万でも通用する仕上がりではないだろう。自分の感覚だと、DT880E 600と同じくらいの仕上がりレベル(ぱっと見良いけど詰めが甘い)で、そこに高級 Muirhead 製レザーだのKvadrat のファブリックだのを追加して値段が吊り上がっている印象。だけど仕上がりレベルはDT880E 600と同じ2.5万クラスなので中途半端感が否めない。
もしあなたが高級 Muirhead 製レザーだのKvadrat のファブリックだのに価値を感じるならば、3.7万でも値段なりの外観と言って良いだろう。だがそうでないなら割高という印象。


あと、ハウジングの稼働域が狭くて本当にこれで良いの?と思ってしまった。ほとんどイヤパッドの変形によって密着度を稼ぐタイプ。でも装着できない話は聞かないのでこれで良いのかもしれません。私も問題なく装着できました。
それからこのヘッドホンの特徴である布張りのハウジング。イヤパッドは外せば洗えますが、ハウジングは分解しない限り洗えないのであまり衛生的じゃないと思いました。やはり、HD650のような金属パンチングのハウジングが無難じゃないかと。このヘッドホンは音は良いんだけど、道具としての完成度はHD650には全然及ばない印象。


 変換プラグの質もいまいちで、変換プラグとケーブル側のミニプラグ間での接触不良が良く起きる。グルグル回したり左右に振ったりすると回復する。見た目は富士パーツが出している変換プラグAC-666にそっくりで、そこらへんに転がっていた富士パーツのニッケルメッキプラグAC-5MHと交換したが、金メッキとニッケルメッキの差はあれど音質は似たような感じだった。少なくとも寿司テクのプラグよりは似ている。同じところが作ってたりするんだろうか。でも形状が微妙に違う。変換プラグの接触不良は個体差の可能性もあるけど、エージング中に片側が鳴ってなかったなんてことがあると困るから富士パーツのニッケルメッキプラグAC-5MHを代替として使うことにする。



デザインは非常にかっこいいと思います。北欧風の家具と言いうか、こういう家電的なデザインて好きなんですよね。





残念なのは左右スピーカー部を繋いでいるアームの裏側。革の継ぎ目が丸出してちょっと見苦しいですね。ここを気にするかは人によると思いますが、高級感を演出するなら、きちんと作り込んで欲しかったです。



ヘッドバンドの縁取りもいまいち。縁枠を重ね合わせてそのまま縫い合わせています。L側は何もなく、そのままぐるっと回りこませているので、左右非対称で美しさに欠ける。



ヘッドバンドL側はR側と違って継ぎ目がありません。



金メッキのものがFidelio X3の変換プラグ。ニッケルメッキのがAC-5MH。見た目はそっくりです。



3.5mm挿入口の形状が微妙に違うので、全く同じものではないようですが、音質レベルとしては似たようなレベルです。付属のものは安定して接続できないので音質評価もAC-5MHで行うことにします。



読者の中にはHD650は叩かないでFidelio X3を叩くのは贔屓だと思われた人がいるかもしれない。確かに高級感で言ったらHD650も6万クラスでは通用しないだろう。ただ個人的には音に関係ない高級感なんて馬鹿らしいと思っているし、コストのために割り切ったならそれで良いと思っている。それにHD650はFidelio X3みたいな見苦しい仕上げはしてない。そこいくとFidelio X3は「高級感なんて馬鹿らしい」とそう思うような雑な作りじゃないか。ところが「高級感なんて馬鹿らしい」と思いながらも、私はnightowl carbonは作りが良いと褒めている。Fidelio X3は人に伝わるような造りの良さ、こだわりが感じられない。これじゃあ、ただのハリボテだ。なので、自分でも意識はしてなかったのだけど、私は本質的に高級感がないから叩いているのではなくて美意識がないから叩いているのだろう。


肝腎の音ですが、まだ全然鳴らし込んでいませんが、音色は良いものの世間で言われているようなモヤ感があります。細部が潰れていて、K701(1211曲, ランダム再生, 0.6-0.7Vrms, 4675時間以上, +1160段)の65%くらいの解像度って感じでしょうか。757段くらい? でも、鳴らし始めのK812より高解像な音ではあります。
バランスは癖のないニュートラルな感じでHD600に近いです。モヤっとするところもHD600にそっくりで、音色の色彩感豊かなHD600という感じです。
ネガティブなところがまだあって、ボリューム感が良くありません。音像も大き目でくっきりした感じではないです。奥行きは20m程度でカンストはしていません。機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルのボーダーから1.7歩手前という感じです。ヘッドホン固有の音が多分に残っており没入感はそこまでではありません。また、モヤっとしていてマイルドな印象なのにボーカルのサ行が結構強めに掠れたりします。総じていうと現状ではK701より音良くないです。ですが、エージングしてないK812やHD650よりも音良いので、エージングが進めばHD650以上の音は十分望めるかなという感じです。






20240618_追記


2024/06/18_107時間の1211曲,ランダム再生
HD120で評価
モヤ感が改善してきて解像度も上がってきた。84時間ではモヤ感はあまり改善されずサ行が改善してきたくらいだったが、ここにきて解像度も上がってきた。解像度はK701(1309時間ランダム再生+3559時間の通常の再生エージング,+1160段)の-30段程上。+1130段の解像度。Fidelio X3はK701の97%の解像度と言うことになる。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、伝統だね。奥行きは25mでカンストレベルかそれに近いレベルになっていると思う。定位の仕方が、他のヘッドホンとほとんど変わらないので。
まだ、K701よりクッキリはしていないのだが、モヤで細部が潰れるという感覚はなくなってきた。音色は明らかにFidelio X3のほうが良い。K701は音が歪っぽく聞こえる。機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルをボーダーから0.1歩ほど超えてきている。ボリューム感も改善してきているが、まだ並レベルという感じ。
エージング100時間でこれなら4000時間も鳴らしたらHD650を超えるのはほぼ確実なんじゃないかな。外観に関してはちょっとだけ難があるけど、音に関してはHD650以上のポテンシャルを感じる。





20241209_追記


4000時間エージングしたので追記
 本来は「K812並の音質でこの価格!すばらしいコストパフォーマンスだ!ぜひFidelio X3を買おう!」と言うべきなのだろうが・・・

とりあえずテンプレ評価
2024/12/09_4089時間の1211曲,ランダム再生
HD120で評価

傾向はニュートラルだがソフト傾向。※詰まり感なし。※閉塞感なし。※抑圧感なし。※音色はすごく良い。signature pureよりも良い。また機械の存在を忘れて音楽に没頭できるレベルををボーダーから1.15歩ほど超えてきている。奥行きは24mでカンスト。ただし、K812やnighthawk carbonと比べると音像が肥大気味で定位は甘め。

※上記の「※詰まり感なし。※閉塞感なし。※抑圧感なし。※音色はすごく良い。」という評価はあくまで似たような実力のK812やnighthawk carbonと比べての話です。これより上の音質のSRH1540となら抑圧感や閉塞感を感じますし、比較対象で印象は変わるものなので、それくらいのもんだと思ってください。


解像度的にはK812(6985時間ランダム再生+2519時間の通常の再生エージング,+1610段)105%。1690段といったところ。解像度に段という単位を使うのはどうかと思うんだけど、伝統だね。
解像度的には鳴らしきったHD650に少し及ばないといった感じ。モヤつきがもうちょっと少なくなれば。。。鳴らしきったHD650はもっとクッキリした音を鳴らす。
Fidelio X3はモヤつきがSNを悪くしているし、ダイナミクスも低下させている。そのせいで抑揚のない音が鳴る。実在感にも乏しい。ただ、モヤつき感もK812やnighthawk carbonよりちょい多い程度だし、全体的にはK812(6985時間ランダム再生+2519時間の通常の再生エージング,+1610段)やnighthawk carbon(7000時間ランダム再生+9576時間の通常の再生エージング,+1690段)とほとんど互角レベルの実力と言って良い。音色がsignature pureよりも良いのも美点。それをモヤつきが台無しにしている感じ。とはいっても全然ダメと言わけではなく、K812やnighthawk carbon, signature pureと比べても、また聴きたいなと思うのはFidelio X3の方。それくらいの音色の美しさ、聴き心地の良さは持っている。欠点はたくさんあるが惹かれるものがあるといった感じ。

この評価は3808時間時とさして変わらない。というか1763時間時と大差ない評価で、1763時間を超えたあたりから長時間エージングの効果が出ていない。長時間エージングでモヤつきも取れるだろうと予想していたが、モヤが取れず、当初予想していたよりも音質が良くなってくれなかった。これはおそらくこのヘッドホンの使われているダンピングジェルの所為だろう。液体にはエージングが効かないからね。そのくせ振動板が動くたびに液体由来のノイズが出るのかモヤ感もいつまでたっても消えない。ジェルというからには液体部分だけでなく固体部分も存在するので固体部分にはエージング効果はあると思うのだが、4000時間の長時間エージングの効果は非常に薄いという感じ。4000時間以上、例えば8000時間とか12000時間とかエージングすれば、効果が出る可能性もあるが非現実的だし、誰もそんなこと望んでいない。そもそも私のレビュー読んでFidelio X3を買って4000時間鳴らそうって人はいないだろう。






■Fidelio X3まとめ

Fidelio X3は買いか?
結論を言うと買いでない。正確には3.7万で買っても損はしない音質だが、私個人はお勧めしない。コストパフォーマンスの問題でなく、「投入されている技術は優れている。音質も比較的良い。だが、音の追い込みが試作品レベルの域を出ていない。この商品きらーい。」という話。純粋に音質だけで言うならK812と互角レベルかそれよりちょい上くらいの音質で上級機泣かせのコストパフォーマンスであるのは間違いない。だが、Fidelio X3の音を聴いていると、モヤ感のある音をそのまま放置していたり、チューニング不足は否めない。音色の良さは恐らくダンピングジェルが効果を発揮していて、Fidelio X3の音質は「振動板にダンピングジェルを充てんする」アイデアによって支えられていると言って良いだろう。同時にモヤ感が出るデメリットがあるようで、それを放置しているようなんだけど、PHILIPSのゴールデンイヤーは本当にこれで良いと思ったんでしょうか?ゴールデンイヤーと言うからにはこの程度の問題点は当然認識していることだろう。それでも相対的に言えばK812と互角かやや超えるレベルの音質なので、コストパフォーマンスは良い。それで商品力は十分あると判断したのかもしれない。

 ところが、K812並の実力があるのに、その実力に比してこのヘッドホンはまったく売れていないのだが、そこはやはりFidelio X3の良さが分かりにくいという点に尽きるだろう。定位の良さやクリアさはほとんどの人が分かるが、音色の良し悪しが分かる人は少ないので。ゴールデンイヤーは当然音色の良し悪しが分かるだろうから売れると思ったのだろう。爆売れしたFidelio X2の後継機でもあるし。誤算だったのは定位の良さやクリアさが至上命題で音色の良し悪しが分からない人にとってはこのヘッドホンはナンセンスな商品だったということだ。存在価値がないと言っても良い。そこを鑑みるとK812レベルの音質だからって満足せずに、問題を解決してより高みを目指したほうが良かったのではなかろうか。

 頂点を目指すとは言わずとも、私はFidelio X3を聴いて、簡単にこれより良い音出せると確信している。そう思うからこそ、音質的にはK812と互角レベルでも、チューニング不足で半端な出来だと感じてしまう。素質があるのは認める。だがその素質をフルに生かしたならこの程度の音のはずがない。もっと出来たはずだとね。Fidelio X3の出音や投入されている技術を考えれば、K812やHD650はもとよりSignature Pureよりも良い音が出せたはずだ。そういうのが見えてしまうので非常にがっかりしてしまう。「ここが惜しい!」とかそんなレベルじゃなく、100m走で30mくらい走ってぶっちぎったら「勝ったな!」と走るのをやめてしまった感じ。努力が全く足りていない。なので(相対的な基準で言えば)音質は良くても、完成度は低いと判定している。

あと、外観に関しても、高級感を謳いながら高級とは程遠い造りをしていたり、なんていうのかな・・・「机上で設計して、設計段階のアイデアが良かったので、結構良い音が出てしまった。音質や外観で細かな問題点もあったが、時間がなかったのでそのまま売ることにした」みたいな? 問題点を解決していない試作機みたいな出来。ヘッドアームの革張りやヘッドパッドの仕上げを見て「雑な仕上げだなぁ」と思うでしょう?音に関しても似たようなレベルでの追い込み具合だ。
金や時間の問題は何かを開発していればついて回る問題であるし、ある程度はしかたがないと思うのだが、個人的にはこの完成度は許容できないなと。実際はそうでないのかもしれないが使っていて、製作者のこだわりポイントが見えてこないし、音質も外観も、とりあえず作った試作品のように感じられてしまうので、作り手の魂が感じられる商品じゃないと嫌って人にはお勧めしないかな。

まぁ、ダンピングジェルという変わった技術を使っているし、それによる美点も確かにあるので、(後継機種が出ないのなら)コレクションとして持っておきたい人には良いかもしれない。